徹底解剖!31平均律 — 微分音音律の首府となるか?
詳細情報
| 日時 | 2026年07月17日 21:30 - 23:00 |
|---|---|
| テーマ | 徹底解剖!31平均律 |
| 発表者 | MisohitoNakai / らいある_Liarl / 渡月 太陽 / takunnmaさん |
| 集会名 | VRC微分音集会 |
| 発表資料 |
31平均律という"黒船"
31平均律を音楽史・音楽理論の文脈における「黒船来航」なるか?
12平均律の音の解像度を飛躍的に高めることで、既存の協和音の美しさを最大限に引き出しながら、これまでになかった新しい協和の世界へと踏み込める——そんな"ゲームチェンジャー"として、微分音の世界では圧倒的な存在感を放っています。
序盤:31平均律って何? どんないいことがある?
1. 31平均律とは?
ひと言でいえば、「ド」から次の「ド」(1オクターブ)の間に 31個の音 が詰まっている、ちょっぴり贅沢な音律です。
「ドレミファソラシドはあるの?」→ あります。
「まともに曲が作れるの?」→ 作れます。
2. 31平均律の旨味(メリット)
31平均律を使うことで得られる恩恵は大きく4つ:
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新たな協和の可能性の模索
「ハーモニック・エントロピー(HE)」という不協和度の指標を使って見ると、12平均律の外側にも協和するはずの音程が点在しているのがわかります。31平均律はそれらをしっかり掬い取れる音律です。 -
既存の音楽システムの再確認
西洋音楽から民族音楽まで、音律という切り口から音楽を解剖し直すことで、ソルフェージュやアナリーゼの力が鍛えられます。特に、ルネサンス〜バロック期に広く使われていた「中全音律」とほぼ同等の響きを持ちながら、等分音律なので移調が自由というのが大きなポイントです。 -
既存の西洋調性システムからの脱却
中東の音階(マカーム)やバリの音階(スレンドロ)など、非西洋的な音階のエミュレートにも有効です。 -
12平均律の「3度問題」の打破
12平均律では完全5度こそ精度が高い(誤差+2¢)ものの、長3度は純正から13¢以上ずれています。31平均律は中全音律に近い設計のおかげで、3度の精度が劇的に向上します。各ジェネレーター別の平均HEを計算すると、完全5度の大きさについて31平均律周辺が最も協和的なゾーンに位置することも示します。
3. 基本的な構造
キーとなる音程幅
| 音程 | ステップ数 |
|---|---|
| 全音 | 5ステップ |
| 全音階的半音(ミ〜ファ間など) | 3ステップ |
| 半音階的半音(ド〜♯ド間など) | 2ステップ |
5度「線」(5度圏は本当は循環しない)
12平均律では5度圏が12音でぐるりと一周しますが、31平均律では同じようには5度圏は閉じません(直線的に続くと考えたほうが楽)。
F より4度側では♭、B より5度側では♯がつく、という楽典のルールもこれに基づいています。したがってラ♭ ≠ ソ♯(エンハーモニック同音は存在しない)というのが重要な前提です。
記譜体系
基本的な記号(♯/♭/𝄪/𝄫)は12平均律と同じですが、意味するステップ数が異なります。
さらに31平均律ではハーフシャープ・ハーフフラット(+1/−1ステップ)やセスキシャープ・セスキフラット(+3/−3ステップ)といった記号が追加されます。
自然倍音との近似精度
| 周波数比 | 音程名 | 12平均律誤差 | 31平均律誤差 |
|---|---|---|---|
| 2:3 | 完全5度 | −2.0¢ | −5.2¢ |
| 4:5 | 純正長3度 | +13.7¢ | +0.8¢ |
| 4:7 | 自然7度(7倍音) | −18.8¢ | −1.1¢ |
| 8:11 | (11倍音転回) | −1.3¢ | −9.4¢ |
| 8:13 | (13倍音転回) | +9.5¢ | +11.1¢ |
長3度・自然7度に対する精度の高さが際立ちます。
4. 歴史
31平均律の誕生には、音楽理論の数千年にわたる積み重ねがあります。
- ピタゴラス音律:完全5度(3/2)を積み上げて音階を構築。ただしド〜ミ間(ディトノス)は不協和とされていた。
- 長3度の協和の発見:アルキタスが5倍音程(4:5)の協和を発見。これを組み込んだのが「純正律」。
- 純正律の問題点:レ〜ラ間に「シントニックコンマ(81/80)」分のずれが生じ、不協和が発生する。
- 中全音律の誕生:シントニックコンマを緩和するために5度を少し縮めた音律。長3度がきれいに響く。
- ディエシスと31の発想:全音を5分割し、全音階的半音を3分割すると(5×5 + 2×3 = 31)、1オクターブに31のディエシスが現れることがマルケット・ダ・パドヴァ(14世紀)・ニコラ・ヴィチェンティーノ(16世紀)らによって言及されてきた。
- 31平均律の登場:中全音律の縮んだ5度を繰り返していくと、31回目にほぼ元の音に戻る——ファビオ・コロンナが1618年に中全音律の31音拡張を記述。レメ・ロッシが1666年に循環する31平均律を提唱。
- クリスティアーン・ホイヘンス(1691年)が7倍音近似の高さを発見。
- アドリアーン・フォッカー(1945年〜)が31平均律オルガンを製作。
5. モンゾとヴァル
音律を数学的に記述するためのツールが紹介されます。
- モンゾ(Monzo):純正音程の周波数比を素因数分解し、各素数成分を列ベクトルで表したもの。たとえば完全5度(3/2)は
|-1, 1>と書けます。 - Patentヴァル(Val):n平均律において各倍音が何番目のステップに近似するかを並べた行ベクトル。12平均律のPatentヴァルは
<12, 19, 28|。 - 内積:ヴァルとモンゾの内積を計算すると、その純正音程が何ステップに近似されるかがわかります。内積が0になる場合、そのコンマは同じ音として扱われる状態、「緩和」されているといいます。
- マッピング行列:複数のヴァルをまとめたもので、音律の構造を線形代数的に記述できます。
6. 特徴的なコンマの緩和
31平均律が緩和する(=「同じ音」として見なす)主要なコンマを4つ紹介:
-
シントニックコンマ(Syntonic comma, 81/80)
5度圏を4つ進んだ音が純正長3度に近似する性質。これを緩和する音律は「Meantone」と呼ばれ、一般的なダイアトニック音楽に最適です。なお41平均律や53平均律はこのコンマを緩和できない点が対照的。 -
セプティマル・クレイスマ(Septimal kleisma, 225/224)
シントニックコンマとあわせて緩和すると、増6の和音が7倍音の単音程転回に近似します。モーツァルトの「トルコ行進曲」で意図的に使用されていると考えられる箇所(増6の和音)も、当時の中全音律環境を彷彿とさせます。 -
ラストマ(Rastma, 243/242)
長3度と短3度の間にある「中立3度」が11/9に近似し、完全5度を2等分する性質。中東の音階「マカーム」の一種「ラースト」が命名の由来。これによって31平均律は中東音楽との親和性が非常に高くなります。この2つを合わせて緩和する音律系統は「Mohaha」と呼ばれます。 -
トリデシマル中立3度コンマ(512/507)
13倍音の2回の堆積が完全4度に近似する性質。ラストマとあわせると、11倍音と13倍音の差分(13/11)を短3度として扱えます。
これら4つのコンマを同時に緩和することで、3・5・7・11・13倍音を一括りにした「中立3度圏」という新しい軸が生まれます。これが31平均律のもつ豊かな表現力の源泉になりうるものです。
7. 主要なMOSスケール
MOS(Moment of Symmetry)スケールとは、1つのピリオド(オクターブ等)と1つのジェネレーター(完全5度など循環させる音程)から構築され、隣接音程が「広い(L)」と「狭い(s)」の2種類だけになる音階のこと。(Three-Gap Theoremとも関連)
ダイアトニック(5度圏上の連続7音)
シントニックコンマを緩和すると美しいとされる。7つの旋法(Lydian, Ionian=長音階, Mixolydian, Dorian, Aeolian=短音階, Phrygian, Locrian)が生成されます。
クラシック・ペンタトニック(5度圏上の連続5音)
東アジアのペンタトニックスケールなど。5つの旋法(宮・徵・商・羽・角)に対応します。
Mosh(中立3度圏上の連続7音)
11倍音・13倍音を含む複雑な音組織。Kleeth(Cilician)旋法は3・6・7度が中立音程となる「ニュートラルスケール」とも呼ばれ、やや中東音楽的な雰囲気も持ちます。旋法名はAndrew Heathwaite氏とCellular Automaton氏によって命名されています。
Dicoid(中立3度圏上の連続10音)
2つのペンタトニックが中立3度差で重なった10音音階。陰陽の対が5種(宮・徵・商・羽・角)あり、五行的な命名がなされています。1音おきに音を拾うとクラシックペンタトニックが2つ現れる構造です。
中盤:コードや扱い方はどうなる?
1. 音程の呼び方
31音あるため、各ステップに対応した細かい度数の名称が必要です。1度〜8度(オクターブ)にわたって、ユニゾン・長・拡・増・重拡・重増(上方向)および短・中立・縮・減・重減などの詳細度数で体系化しつつ、隣接する度数との関係を示す図で紹介します。
2. コード表記の本質:標準位置
コードネームの裏には「標準位置」という概念があります。たとえば「G7」と書いたとき、単に4音が指定されるのではなく、より高次のテンションまでを含んだ構造の一部が「露出」しているとみなすと本質的です。
3. 接辞システム
コードネームに付く記号(接辞)によって、標準位置から特定の音が変位・置換されます。
- 変位系:m(短)、M(長)、aug(増)、dim(減)、ø(半減)など
- 置換系:
sus4sus2(3度を4度/2度に置換)、6(7度を6度に置換) - パワーコード:
5(omit3の略記) - 括弧書き:
(#11)(♭10)など、音の追加・上書きを表す
特筆すべきコードとして以下が紹介されます:
- ジミヘンコード:31平均律ではエンハーモニック同音がないため ♯9 ではなく (♭10) と表記するのが正確。
- 短調のドミナントでよくある aug7:これは先取音としての13thテンションと解釈しなおし (♭13) と表記。
- 増六の諸和音:ドイツ増六・イタリア増六・フランス増六・"Blackadder"コードのスラッシュなし表記など、自然7度(7倍音)を音階破壊なしに活用するための増六和音運用を紹介します。
4. 技法:31平均律を「自然に」使うテクニック
エンハーモニックの違いを活用する
12平均律では同音とみなされるラ♭とソ♯が、31平均律では1ステップの差があります。この微妙なピッチ差を使って、半音以下の声部移動が可能です。
増六の和音によるトライトーン代理
増6度は自然7度(7倍音の単音程転回還元)に近似するため、増六和音を使うトライトーン代理がより精確な倍音に基づいた新しい表現になります。フランス増六・ドイツ増六の両形式での実例コード進行を示します。
ブルーノートによる高limit和音
中立3度(11/9)や短5度(13/9)という高次倍音由来の音程を用いることで、ブルーノートを含んだ11・13倍音系の和音が構築できます。
声部の反行による微分音的転調
通常のコード進行の中で、声部を半音以下で反行させることで、従来の12平均律では成し得なかったキーへと転調する微分音的な手法です。ブルーノートを活用した増六和音なども組み合わせた複雑な実例進行も紹介します。
終盤:31平均律を実践しよう
DTMでの実践
MIDI チャンネルを活用した環境構築
MIDI 1.0では1ケーブルで複数パートを扱うために「チャンネル」が使われてきました。31平均律のDAW環境では、この仕組みを再活用していきます。
基本的な発想:31音のうち連続する12音(5度圏上)を1セットとし、それを上下に1ステップずらした3セット(合計36音、5音重複)でオクターブ内の全31音をカバーします。この3セットをMIDIチャンネル1・2・3で打ち分けることで、1つのピアノロール上に31平均律の音全体を収められます。
推奨DAW:REAPER
MIDIイベントのチャンネル変更ショートカットの設定や、チャンネルごとのルーティング・視認性の高さから、現時点で最も微分音制作に適したDAWとして紹介します。
トラック構成:
- MIDIはch.1〜3(音程)+ ch.4(ペダル・ピッチベンド等)を1つの専用MIDIトラックで打ち込み
- ch.ごとに3つの音源トラックへ信号を分配
- ch.4の信号は全音源に共通送信
ただしポルタメントのある単音楽器(シンセ等)ではチャンネル切替が機能しないため、31音を愚直に配置するか、Ableton LiveのMPE機能を使う方法が紹介されています。
プラグインの31平均律化
「12平均律を38.7¢ずらせばよい」は誤り。
プラグインごとに31平均律(からの12音の抜粋)へ正確にチューニングする必要があります。
- .scl / .kbm / .tun 対応プラグインを使う方法:Spectrasonics(Keyscape, Omnisphere 2, Trillian)、u-he製品、Vital(無料)、Serum/Serum 2、Modartt Pianoteq など
- Entonal Studio(MPE操作ツール):あらゆるプラグインに強制的にチューニングを当てられるツール
- Scale Workshop(チューニングファイル生成ツール):.scl / .kbm / .tun / Kontaktスクリプト等を出力可能(Webアプリ)
- 音律ファイルは中井三十一のnoteからもダウンロード可能(C=261.625Hz基準のため A≠440Hz に注意)
ボカロ等への対応
- MelodyneのEditor版以上は.sclに対応。
- Vocal Shifterで31平均律グリッドへ手動補正する方法も。
- Synthesizer Vでは、スクリプトを用いた自動ピッチベンドによる対応法もあります。
ゲスト講演
- Ableton Liveでの実践例
- Fender Studio Pro での実践
- OpenUtau 微分音対応版の開発事例と使い方
31平均律の演奏:楽器紹介
31音を演奏するための楽器開発は世界各地で進んでいます。
- Fokker Organ(オランダ):アドリアーン・フォッカーが開発した31平均律パイプオルガン。現在はアムステルダムのMuziekgebouw aan't IJ に現存。巨大すぎたため、後継の電子オルガン「Arcifoon」が開発された。
- Motorola Scalatron(アメリカ):George Secor氏が開発した電子オルガン。ハニカム構造インターフェースの元祖。現在はEMEAPP社に寄贈されています。
- Studio 31+の楽器群(スイス):Arciorgano、Clavemusicum omnitonum、Cimbalo cromatico、Archicembaloなど。
- Lumatone(4250USD):鍵盤1つずつに任意のノートナンバー・色・チャンネルを割り当てられるMIDIキーボード。
- 31平均律57フレットエレキギター:フレットをより細かく打つことで微分音演奏を可能にした特注ギター。中井三十一氏および31Z(らいある)氏のモデルが紹介。Red House Guitar製モデルはGEN Guitar Award 2024のCONCEPT & IDEA部門を受賞。
- Hear Between The Lines(ドイツの音楽ユニット)の活動も紹介します。
VRC微分音集会の他の発表もチェック!
VRC微分音集会の開催情報・参加方法
VRC微分音集会
開催日: 2026年07月17日
開催時間: 22:00 - 23:00
開催曜日: 金曜日開催周期: 月1回
毎月最初の金曜日に開催。微分音・Xenharmonicといった西洋音楽の12平均律を飛び出した音楽理論や調律理論、関連技術についての交流会です。 集会では不定期でLTやお悩み相談も開催予定。 音楽に関わりのあるすべての方々に、斬新で画期的な新時代の音楽のアプローチを提唱いたします。