VRChat「ゲーム開発集会Ⅱ」fogさんの発表内容まとめ:オンラインゲーム開発の深淵へ

詳細情報

集会名 ゲーム開発集会
日時 2024年08月04日 21:00 - 21:30
テーマ オンラインゲーム開発
発表者 fog
発表資料

発表ハイライト

VRChat内の「ゲーム開発集会Ⅱ」にて、fogさんが「オンラインゲーム開発」をテーマに発表を行いました。オンラインゲームの歴史から始まり、マッチメイキング、P2P通信の課題、チート対策、そして開発に役立つサービス紹介まで、多岐に渡る内容を分かりやすく解説していただきました。特に、座標同期の重要性や遅延対策、近年注目されているTick Based Simulationといった高度な技術についても触れられており、オンラインゲーム開発の奥深さを改めて認識できる内容となっていました。

オンラインゲームの歴史と進化

fogさんの発表は、まずオンラインゲームの歴史を振り返ることから始まりました。

  • 世界初のネットワーク対応ゲームとして「Empire」を紹介。
  • その後、MMORPGの礎を築いた「ウルティマオンライン」についても言及。
  • そして、現代のMMORPGに大きな影響を与えた「EverQuest」の成功例を挙げ、オンラインゲームの進化を概観しました。

マルチプレイゲーム開発における重要な要素

続いて、マルチプレイゲーム開発において重要となる要素について解説がありました。

プログラミングにおける課題

  • 座標同期: プレイヤーキャラクターやオブジェクトの位置情報をリアルタイムで共有するための技術。
  • アニメーション同期: キャラクターの動きをスムーズに同期させるための技術。
  • オブジェクトの状態同期: オブジェクトの状態変化を共有し、ゲームの一貫性を保つための技術。
  • オーナーシップ管理: オブジェクトの状態を変更できる権限を適切に管理するための仕組み。
  • RPC (Remote Procedure Call): 遠隔操作を行うための技術。
  • コンテンツダウンロード: ゲームに必要なデータを効率的にダウンロードするための仕組み。
  • ボイスチャット: プレイヤー間のコミュニケーションを円滑にするための機能。

これらの要素を適切に実装することで、スムーズで快適なマルチプレイ体験を実現できることを強調されていました。

座標同期の詳細

座標同期に関しては、より詳細な解説がありました。

  • サーバーから断続的に情報が送られてくるため、オブジェクトがテレポートしているように見える問題が発生する可能性がある。
  • そのため、情報の間を補完する計算が必要となる。
  • 線形補間や曲線補間といった手法があり、それぞれメリット・デメリットがある。

fogさんは、開発初期段階では比較的実装が容易な線形補間で十分だが、より滑らかな動きを実現したい場合は曲線補間を検討する必要があると述べていました。

遅延問題への対策

オンラインゲームでは、どうしても遅延が発生してしまうという課題があります。

  • 都市間の平均遅延は一定値があるため、完全に遅延をなくすことは難しい。
  • ゲームジャンルによって許容される遅延時間は異なる。
  • 格闘ゲーム:25ミリ秒以下
  • FPS:100ミリ秒以下
  • MMORPG:0.5秒程度

fogさんは、これらの許容遅延時間を意識しながら、様々な工夫で遅延を感じさせないゲーム開発の重要性を訴えていました。

Tick Based Simulation

近年注目されている遅延対策技術として、Tick Based Simulationについても触れられていました。

  • 全クライアントがホストのネットワーク時刻(Tick)に同期する。
  • 各クライアントはゲームの状態を予測し、オブジェクトの位置を事前に計算しておく。
  • ホストから受け取ったメッセージで答え合わせを行い、必要であれば巻き戻し(Rollback)を行う。

この技術により、ユーザー間のズレを最小限に抑えることができるとのことですが、実装は複雑で、ゲーム内時間とは異なる時間軸を扱う必要があるため、初心者にはハードルが高いとのことでした。

マッチメイキングとネットワーク方式

オンラインゲームにおける対戦相手を見つける仕組みであるマッチメイキングと、ネットワーク通信方式についても解説がありました。

  • マッチメイキング:ランダムマッチング、ランキングベースマッチングなど、様々な手法が存在する。
  • ネットワーク方式:クライアントサーバー型、P2P型など、ゲームの規模や特性に合わせて選択する必要がある。

fogさんは、少人数対戦ゲームでは速度面で有利なP2P型が適している場合もあるが、大規模なMMOなどではクライアントサーバー型が一般的であると説明していました。

P2P通信の課題とNAT超え

P2P通信では、ファイアウォールやNAT(Network Address Translation)の存在により、直接通信が困難な場合があります。

  • NAT超え:プライベートIPアドレスとパブリックIPアドレスを変換する技術。
  • STUNサーバー:自身のグローバルIPアドレスとポート番号を取得するためのサーバー。
  • UDPホールパンチング:STUNサーバーの情報を利用してP2P通信を行う技術。

fogさんは、P2P通信の実装にはNAT超えの知識が必要となるが、WebRTCなどの技術を活用することで、比較的容易に実装できるようになっていると述べていました。

通信プロトコルとセキュリティ

オンラインゲームで使用する通信プロトコルとセキュリティ対策についても言及がありました。

  • TCP:信頼性の高い通信プロトコル。MMOなどでよく利用される。
  • UDP:高速な通信プロトコル。リアルタイム性が求められる音声や映像の通信に適している。
  • HTTP、HTTPS:データの送受信に用いられるプロトコル。セキュリティ対策としてHTTPSの利用が推奨される。

fogさんは、ゲームの特性に合わせて適切なプロトコルを選択することの重要性を強調し、セキュリティ対策の必要性についても触れていました。

リリース後の運用と課題

オンラインゲームはリリース後も、継続的な運営と様々な課題への対応が必要となります。

  • 運営:ユーザーの声を聞きながら、ゲームバランスの調整や新コンテンツの追加を行う。
  • 運用:サーバーのメンテナンス、不具合対応、不正行為への対策などを行う。
  • チート対策:メモリハック、パケット改ざん、DDoS攻撃など、様々なチート行為への対策が必要となる。
  • RMT(リアルマネートレード):ゲーム内通貨やアイテムを現実世界の通貨で取引する行為。ゲームバランスや経済に影響を与える可能性があるため、対策が必要となる。

fogさんは、これらの課題に適切に対処することで、長期にわたってユーザーに楽しまれるオンラインゲームを提供できることを強調していました。

オンラインゲーム開発に役立つサービス

最後に、オンラインゲーム開発に役立つ様々なサービスが紹介されました。

  • ゲームエンジン:Unity、Unreal Engine
  • ネットワークミドルウェア:Photon Engine、SpatialOS、UNet
  • バックエンドサービス:PlayFab、GameSparks、Firebase
  • データベース:MySQL、PostgreSQL、Redis

これらのサービスを活用することで、開発効率を向上させ、よりクオリティの高いオンラインゲームを制作できる可能性が広がります。

まとめ

fogさんの発表は、オンラインゲーム開発の基礎知識から高度な技術、そしてリリース後の運用まで、幅広い内容を網羅しており、これからオンラインゲーム開発に挑戦する人にとって非常に有益な情報が満載でした。特に、座標同期や遅延対策といった、オンラインゲーム特有の課題に対する具体的な解説は、開発現場で直面する問題解決のヒントになるのではないでしょうか。

オンラインゲーム開発は、技術的な難易度が高く、多くの課題が存在しますが、fogさんの発表を参考に、これらの課題を克服することで、魅力的なオンラインゲームを生み出すことができるでしょう。