太陽嵐はITを壊す?VRChat物理学集会で聞いた宇宙天気の話
詳細情報
日時 | 2025年05月31日 22:30 - 23:00 |
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テーマ | 宇宙の天気がITインフラに与える影響とその対策 〜太陽が地球のコンピュータを破壊する?〜 |
発表者 | さめ(мег-сск) |
集会名 | VRChat物理学集会 |
発表資料 | リンク ファイル |
VRChatの「VRChat物理学集会」で行われた、さめ(мег-сск)さんの発表「宇宙の天気がITインフラに与える影響とその対策 〜太陽が地球のコンピュータを破壊する?
〜」は、宇宙の壮大な現象が私たちの身近なIT環境にどう関わってくるのか、非常に興味深い内容でした。
宇宙天気という言葉、聞き慣れない方もいるかもしれません。
これは太陽活動によって引き起こされる地球周辺の宇宙環境の変化のこと。
特に太陽フレアやコロナ質量放出(CME)といった激しい現象が起きると、「太陽嵐」と呼ばれる状態になります。
キャリントンイベントとは?
1859年に発生した、観測史上最大規模の太陽嵐です。
天文学者のリチャード・キャリントンが太陽フレアを初めて観測した翌日に起きました。
歴史的な太陽嵐の影響
このキャリントンイベントでは、世界中でオーロラが観測され、日本でも見られたという記録があります。
当時普及し始めていた電信システムには大規模な障害が発生し、当時の新聞には「オーロラが輝き電信が使えなくなった」と報じられたほどです。
また、1989年にはカナダのケベック州で大規模な停電が発生しました。
太陽嵐によって送電網に変圧器の故障が連鎖的に発生し、600万人以上が影響を受け、復旧に数週間を要したとのこと。
そして、記憶に新しいのは2024年5月の太陽嵐です。
日本でも各地でオーロラが見られましたが、大規模な停電や通信障害は発生しませんでした。
これは、過去の事例から学び、各国の電力会社や通信事業者が対策を進めてきた成果と言えるでしょう。
太陽活動とITインフラの関係
太陽は電気を帯びたガスの塊であり、その活動によって宇宙空間に放出される粒子や磁場が地球に影響を与えます。
これが宇宙天気です。
ファラデーの法則と異常電圧
太陽嵐によって地球の磁場が乱されると、ファラデーの法則に基づいて地上の導体(電線など)に異常な電圧が発生します。
これは、コイルのそばで磁石を動かすと電球が光る現象と同じ原理です。
この異常電圧が、送電網の変圧器を故障させたり、通信ネットワークに障害を引き起こしたりする原因となります。
特に海底ケーブルにも影響があり、インターネット接続が不安定になる可能性も指摘されています。
宇宙インフラへの影響
太陽嵐は地上だけでなく、宇宙のインフラにも深刻な影響を与えます。
通信衛星、気象衛星、そして私たちがカーナビやスマートフォンで利用しているGNSS(GPS)衛星などが機能障害を起こす可能性があります。
GNSSの精度が低下すると、自動運転トラクターや船舶、航空機、ドローンなどに影響が出ます。
実際に、2022年にはスターリンクの衛星が太陽嵐の影響で一度に40基も喪失した事例があります。
2025年は太陽活動のピーク年
太陽活動は約11年の周期で変動しており、2025年はその活動が最も活発になる「太陽活動周期の最盛期」にあたります。
NASAも大規模な太陽嵐が発生する可能性を示唆しており、キャリントンイベント級の太陽嵐が再来した場合、現代の高度情報社会では当時とは比較にならないほどの被害が出るかもしれません。
キャリントンイベント級太陽嵐の発生確率
今後10年間にキャリントンイベント級の大規模太陽嵐が発生する確率は12%という研究結果があります。
NASAのインタビューで研究者も「統計は正しいようです」「気が重くなるような数字です」とコメントしており、決して無視できない確率であることがわかります。
ITエンジニアが取るべき対策
このような話を聞くと不安になるかもしれませんが、さめさんの結論は「普段通りにする」ということでした。
これは決して投げやりな態度ではなく、ITインフラにおける最も重要な考え方に基づいています。
冗長化と災害復旧対策
ITインフラの鉄則は「冗長化」です。
システムの一部が停止しても全体が機能し続けるように、予備のシステムや経路を用意しておくこと。
これは大規模な災害(DR; Disaster Recovery)への復旧対策としても普段から取り組むべきことです。
データの分散保管(クラウドとオンプレミスの組み合わせ、マルチAZ、マルチリージョン、マルチクラウドなど)や、通信経路の複線化、バックアッププランの用意などがこれにあたります。
「いつも通り」これらの対策をしっかりと行っておくことが、太陽嵐のような宇宙天気による影響に対しても最も有効な対策となるのです。
個人でできる現実的な対策
個人レベルでも、基本的な備えは重要です。
アース付きのサージプロテクタを導入することで、異常電圧から機器を守ることができます。
また、UPS(無停電電源装置)を導入すれば、停電時にも時間を稼ぎ、機器を正常にシャットダウンすることが可能です。
サーバーラックのような物理的な保護も有効でしょう。
これらの対策は、太陽嵐だけでなく、地震や台風、盗難といった通常の災害復旧対策としても役立つものです。
まとめ
私たちは意識していなくても、実は宇宙天気と隣り合わせで生活し、仕事をしています。
特に2025年は太陽活動のピークであり、キャリントンイベント級の大規模太陽嵐が発生する可能性も指摘されています。
しかし、各国政府やGoogleのような巨大IT企業も真剣に対策を進めており、私たちは普段からITインフラの冗長化や災害復旧対策を地道に行っていくことが、こうした宇宙天気のリスクに対しても最も効果的な「いつも通り」の対策となることを学びました。
歴史的な教訓からも、日頃の備えがいかに重要であるか再認識させられます。
スライド資料(PDF)は以下から確認できます。
VRChat物理学集会の開催情報・参加方法

VRChat物理学集会
開催日: 2025年05月31日
開催時間: 22:00 - 23:00
開催曜日: 土曜日開催周期: 隔週(グループB)
わたしたちの身の回りで起こる現象のすべては 物理学によって理解できる(あるいは理解可能と期待されている)と言っても過言ではありません。 しかし普段の生活で、それをじっくり語る機会は少ないと思います。 「VRChat物理学集会」は、そんな物理好きたちのための集いです。 物理に興味を持ち始めたばかりの人から、 日々物理と格闘してる研究者・技術者まで、 みんなで集まって気軽に物理の話を…