風で橋が揺れる!?タコマナローズ橋崩落事故から学ぶ振動の物理
詳細情報
日時 | 2025年05月03日 22:30 - 23:00 |
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テーマ | 風の力で振れ幅が大きくなる振り子!? 〜タコマナローズ橋はなぜ落ちたのか〜 |
発表者 | さめ(мег-сск) |
集会名 | VRChat物理学集会 |
発表資料 | リンク ファイル |
VRChatで開催された「VRChat物理学集会」で、さめさんが「風の力で振れ幅が大きくなる振り子!
〜タコマナローズ橋はなぜ落ちたのか〜」という興味深い発表をしてくださいました。
この発表では、1940年に実際に起きたタコマナローズ橋の崩落事故を題材に、物理学の視点からその原因を探求しました。
一見すると難しそうな物理の概念も、分かりやすい例えや図解で解説してくださり、物理が苦手な人でも楽しめる内容でした。
タコマナローズ橋の悲劇
1940年11月7日、アメリカ合衆国のタコマナローズ橋は、強い風にあおられて大きく揺れ、崩落しました。
この事故は、当時の橋梁設計に大きな影響を与え、風と構造物の関係について深く研究されるきっかけとなりました。
さめさんは、この衝撃的な事故の映像を見せてくださり、自然の力の恐ろしさを目の当たりにしました。
なぜ橋は風で落ちたのか?
発表では、橋が風によって揺れるメカニズムを理解するために、まず基本的な振動現象から解説が始まりました。
振り子の運動を例に、物体が自然に振動する様子を物理的な観点から説明してくださいました。
調和振動とは
振り子を少し持ち上げて手を離すと、重力によって元の位置に戻ろうとする力が働きます。
この力は、元の位置からのずれに比例し、常に元の位置に戻そうとする向きに働きます。
このような力が働く場合の運動を「調和振動」と呼びます。
理想的な状況では、振り子はいつまでも同じ振れ幅で振動し続けます。
その運動は、サインカーブやコサインカーブのようなきれいな波形で表されます。
運動方程式では、物体の質量と復元力によって記述されます。
減衰振動とは
しかし、実際の振り子は空気抵抗や摩擦などの影響を受けて、時間の経過とともに振動が小さくなっていきます。
このように、振動のエネルギーが失われて振幅が徐々に小さくなる振動を「減衰振動」と呼びます。
運動方程式には、復元力に加えて、速度に比例する抵抗力を表す項が加わります。
この抵抗力が、振動を抑える「減衰」の役割を果たします。
減衰振動のグラフは、振幅が時間とともに指数関数的に減少する波形になります。
風が引き起こす不思議な力:揚力と逆揚力
次に、風のような流体が物体に与える力について説明がありました。
特に重要なのが「揚力」と「逆揚力」という概念です。
ベルヌーイの定理
揚力と逆揚力を理解する上で基礎となるのが「ベルヌーイの定理」です。
この定理は、流体の速度が速い場所では圧力が低くなり、速度が遅い場所では圧力が高くなるという関係を示しています。
飛行機の翼のように、上側の流速が速く、下側の流速が遅い形状では、上側の圧力が低く、下側の圧力が高くなるため、圧力差によって上向きの力(揚力)が発生します。
逆に、F1カーのリアウイングのように、下側の流速が速く、上側の流速が遅い形状では、下側の圧力が低く、上側の圧力が高くなるため、圧力差によって下向きの力(逆揚力)が発生します。
風と橋の相互作用
タコマナローズ橋のような構造物が風を受けると、橋の形状や傾きによって、風の流れに速度差が生じます。
この速度差によって圧力差が生まれ、橋に上向きまたは下向きの力が働きます。
板が少し傾いている場合、風はその傾きに沿って流速を変え、揚力や逆揚力を発生させることが説明されました。
振動を大きくするメカニズム:自励振動
発表の核心部分は、「自励振動」という現象の説明でした。
これは、外部からのエネルギー供給が、振動のタイミングと同期することで、振動が次第に大きくなっていく現象です。
負の減衰
通常の減衰振動では、抵抗力によって振動が小さくなりますが、自励振動では、風によって発生する揚力や逆揚力が、振動を打ち消すのではなく、逆に増幅する方向に働きます。
これは、運動方程式において、減衰を表す項の符号が逆になることに相当します。
減衰項が負になると、時間の経過とともに振幅が指数関数的に大きくなるという、通常の減衰振動とは全く逆の振る舞いを示します。
ブランコを漕ぐ際に、タイミングよく体を動かすとブランコの振れ幅が大きくなるのと似ています。
風が橋の振動に合わせて揚力や逆揚力を発生させ、それが振動を増幅させてしまうのです。
タコマナローズ橋と自励振動
タコマナローズ橋の事故では、この自励振動のメカニズムが働いたと考えられています。
風によって生じた力が、橋のねじれ振動と同期し、振動を次第に大きくしていきました。
数学的には振幅が無限に大きくなることもありえますが、現実の橋は材料の強度に限界があるため、最終的に崩壊に至りました。
ただし、実際のタコマナローズ橋の崩落は、より複雑な空力弾性フラッターという現象が関わっており、単純な自励振動だけが原因ではないことも補足されました。
しかし、自励振動というシンプルなモデルを通して、風が構造物の振動に与える影響の大きさを理解することができました。
まとめ
さめさんの発表は、タコマナローズ橋の崩落事故を題材に、身近な物理現象である振動と、風が物体に与える力について、とても分かりやすく解説してくださいました。
調和振動、減衰振動といった基本的な概念から始まり、ベルヌーイの定理、そして最終的に自励振動のメカニズムへと進む構成は、物理に馴染みのない人でもスムーズに理解できるように工夫されていました。
特に、運動方程式のわずかな符号の違いが、振動の挙動を大きく変えるという話は、物理学の面白さと奥深さを感じさせてくれました。
符号一つで世界が変わる!
という言葉が、とても印象的でした。
今回の発表を通して、普段何気なく目にしている構造物にも、様々な物理法則が働いていることを改めて認識させられました。
物理学集会では、このような興味深い発表が毎回行われています。
次回の開催も楽しみですね!
VRChat物理学集会の開催情報・参加方法

VRChat物理学集会
開催日: 2025年05月03日
開催時間: 22:00 - 23:00
開催曜日: 土曜日開催周期: 隔週(グループB)
わたしたちの身の回りで起こる現象のすべては 物理学によって理解できる(あるいは理解可能と期待されている)と言っても過言ではありません。 しかし普段の生活で、それをじっくり語る機会は少ないと思います。 「VRChat物理学集会」は、そんな物理好きたちのための集いです。 物理に興味を持ち始めたばかりの人から、 日々物理と格闘してる研究者・技術者まで、 みんなで集まって気軽に物理の話を…